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Youri Egorov - Bach Partita 6 Toccata

本当に好きな音楽家にはそう何人も出会えるものじゃないなと時々思う。
Youri Egorov(Юрий Александрович Егоров)の演奏を初めて聞いた時、
Dinu Lipattiと同じくらいの衝撃を受けた。
バッハのPartita六番、Toccataが流れた瞬間、最初の一音で涙が出そうになった。
その時の事が忘れられなくて、今でも何度もこのパルティータを聞いている。
エゴロフ本人もリパッティの演奏を好んでいたようだ。



今まで聞いたピアニストとは全く違う演奏だったけれど、その音楽の流れに何の違和感も無い。違和感が無いというのは大事な事で、やはり人と違う事を試してみたくなるもの。エゴロフの演奏は、奇をてらったものではないけれど、とても繊細で独特。しかしガリガリと引っかかるようなところはない。その両極へのバランス…凝縮されたこだわりと、どこまでも広がるかのような透明感。これを実現出来る人はそうそういないのではないか。

「音楽が今生まれてくる」かのような新鮮な演奏というのは、クラシックでもジャズでもロックでも簡単に出来る事ではなくて、ジャズでも結局は今まで自分が演奏してきたようなイディオムに引きずられてしまう事は結構多いし、クラシックでは更に難しいかもしれないけれど、エゴロフには何を聞いてもその暖かい流れが存在する。

エゴロフの演奏が好きかどうかは、このトッカータの冒頭を聞けばすぐに判断できると思う。
透明感のある音色と、和音の響きを細やかに捉える特徴的なペダルの使い方。

泣ける演奏ではあるけれど、極度に感情的になったり、ルバートを多用することはない。もしかしたら泣ける演奏というより、清廉な、とか、清潔な演奏と言った方がいいかも。本人は技術には結構自信があったようで、決してゆっくり弾くだけの人ではない。その辺はアファナシェフみたいにそれはまあソ連の人であるし、楽器を活かした鳴りっぷりも見事。ショパンのエチュードでも歌心と技術の両立を見せてくれている。
ただステージ演奏を決して得意としていたわけではなかった事や、早くに亡くなってしまった事もあり、現在聞ける録音には必ずしも本人の納得がいっていなかったものもあるかもしれない。

他の曲でも特徴的なのだけれど、リズムの処理はカッチリしているし、本人の意図以上に流される事はない。6/8リズムなんかもかなりタイトに捉えた上でそこから崩しているようだ。音色も甘すぎるばかりではなくて、結構固い、もしくは激しいトーンで弾く事も多い。しかし全体に漂う何とも言えない甘美さは音楽を個のフレーズに分割する事よりも、和声の滑らかさを重視した結果と言える。更にシンプルなスカルラッティなどでは、少し離れたところから鐘が鳴るのを眺めるような響きが新鮮。
もちろんこの弾き方ではバッハを分析的に弾くには向いていないので、そういうのが好きな人にはロマンチシズム過ぎるとして、好まれないかもしれない。

しかし僕にとっては宝物ともいえる演奏に出会った。
惜しい事に33歳という若さで亡くなってしまったユーリ・エゴロフだけれど、彼が遺したものに感謝しながら大事に聞いていこうと思う。ドビュッシー、ブラームス、ベートーヴェン、ラフマニノフ、彼が残したものは幸いそれなりにバラエティに富んでいるし、ある程度コレクションとしてまとまっているので、知名度から絶対数が少なさそうではあるが、入手はさほど難しくないと思われる。
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[ 2015/04/29 20:00 ] M/Classical | TB(0) | CM(0)

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